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テーマの設定から資料の集め方、執筆までの方法論-野村進『調べる技術・書く技術』

調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)

『調べる技術・書く技術』は職業ライターなら必ず読んでおきたい本だ。駆け出しのライターなら執筆の全体像を知ることができるし、ある程度仕事に慣れてきたライターにとっても役に立つ情報(資料の集め方・整理の仕方など)が豊富に盛り込まれている。

記事を書くための具体的な方法を教える本

著者の野村氏は、四半世紀を超えるライターとしてのキャリアをもとに、その方法論をまとめてくれた。

具体的には、 -テーマの選び方 -資料の選び方 -資料の整理法 -資料収集のネットワークづくり -インタビューの準備 -インタビュー中の聞き取り・観察・記録 -執筆準備から脱稿まで と記事の執筆を7つの作業に分けてそのやり方を説く。

近年クラウドワーキングの流行とともに、初心者がWEBライターを志すこともめずらしくなくなってきた。したがって各自記事の書き方を勉強したい、ひいては勉強に使える本が欲しいところではあるが、いかんせん文章というものは教えるのが難しく、精神論や小手先のテクニックに終止した本が大半を占めている。

しかし、その点『調べる技術・書く技術』は具体的で、すぐに使える情報が満載だ。

「ネットリサーチをメインに記事を書いているが、どうも記事が浅く思える」「今まで自己流で書いてきたが、一度王道を行く執筆を学んでみたい」というニーズには必ず答えてくれるだろう。

次の見出しからは、書籍の内容の中から「テーマの決め方」に関する方法を紹介してみようと思う。この本を手にとることに迷っているのなら、それを読んでからでも遅くはない。

そのテーマは「すでに誰かが書いてしまった」?

テーマの設定にはある程度の独自性が必要だ。もちろん、他の人のテーマとまるっきり異なるというのは難しいが、それでも仕事として書く以上は人と同じような文章を書いているわけにはいかない。

そこで、思いつく限りの候補を挙げてみる。明らかに他の人とかぶっていそうなテーマから、すでに何がテーマかよくわからないようなものまで、とりあえず質より量で書き出してみる。

しかし、そこまでやっても、思いつくテーマすべてが既存のコンテンツであるように思われることはめずらしくない。そしてその直感はおおよそ正しい。もしそうならば、独自のテーマを見つけるためにどうするべきか。

違いは「1つだけ」あればいい

野村氏は、あなたのテーマが他と完全に異なっている必要はないのだという。「ただ1つ」の個性さえあれば、どれほど平凡に思えたテーマも輝きを放ちうるというのだ。

喜劇役者として一世を風靡した俳優「チャップリン」は、当時のコメディアンとしてはごく平凡な見た目をしていた。山高帽に不格好な靴とズボン、付け髭や舞台メイクは、すでに多くの役者たちが使い古していた表現だった。

しかし、彼には唯一他の役者たちと異なる点があった。ステッキである。彼の平凡な容姿は、ステッキという新しい風によって観客に新鮮な印象を与えた。

このチャップリンに対する評価は、週刊朝日の元編集長・扇谷正造によるものである。野村氏は、これに独創性のヒントを見出したのだ。

平凡な中に垣間見える1つの個性、これを氏は「チャップリンのステッキ」と呼び、それを見つけさえすればよいのだと考えた。「チャップリンのステッキ」さえあれば、つまらないと思われたテーマもその印象を一新しうるのだと。

「日常×非日常」の掛け合わせが新しい視点を生む

テーマの個性を作る方法として、もう一つのアイデアがある。

NHKディレクター・高木徹が書いた『ドキュメント戦争広告代理店』という本がある。この本は、ボスニア紛争の最中、アメリカがコマーシャリズムの発想と手法を駆使し、セルビア側を一方的な悪玉に仕立てていった経緯を明らかにしたものだ。

「民族浄化」(エスニック・クレンジング)という言葉がある。社会科の授業などで聞いたことがある人も多いのではないだろうか。この言葉はアメリカのPR会社が打ち出したキャッチコピーであり、セルビアにナチス的なイメージを決定づけた。そしてセルビアが「強制収容所」を建設したという誤報とともに全世界に知れ渡り、アメリカによる反セルビア戦略を後押しすることとなった。

言い換えれば、この戦争の背景には広告代理店の大きな働きがあったのだ。高木氏はその意外性を捕まえ、見事に興味深いテーマへと昇華させた。

ただ単に「ボスニア戦争」がテーマだったならば、一部の人々を除いて関心を示す日本人は少なかっただろう。しかし、そこに「広告代理店」という、一見無関係な言葉が掛け合わされたことで、一転してテーマの印象は身近になり、関心を引くものとなった。

このように、「掛け合わせる」という一手間によって、平凡なテーマも新しいものとなりうる。ただし、その裏には膨大なリサーチや研究が隠れているという事実も忘れてはならないだろう。

余談ではあるが、最近のアニメにも多く使われている方法だと思った。「アイドル×政治」や、「異世界×自衛隊」など、異色の組み合わせによって新たなストーリーを生み出している。

テーマを選ぶ際のチェックポイント

思いついたテーマをメモ帳にストックしている人は多いと思う。私もその一人だ(全然書いていないが)。

ただ、ネタ帳というものは通常玉石混淆であり、面白いと思っていたものが記事にしてみると想定外に浅く、つまらないものにしかならないということもある。

それを防ぐには、当然のことだが、実際に手をつけるテーマを選別しておくことである。では、その選別にはどのような基準が考えられるのか。野村氏は、テーマを決める基準として次の5つを挙げている。

時代を貫く普遍性をもっているか

世間の出来事、言い換えれば目に見える「現象」には、その裏側に大きなカラクリが隠れていることがある。テーマについて調べれば調べるほど、そのカラクリと他テーマとの関連が見えてくるようなら、そのテーマには時代を貫く普遍性がある。

逆に現象の下には何も隠れていない、薄っぺらいテーマだったということもあるのだが、ともかく普遍性のあるテーマというのは社会と歴史にとって有益なテーマであることはおおよそ確かだろう。

現象を追いかけるだけの愚行ではなく、現代世界と世界史の中に位置づけられるようなテーマを求めれば、徐々にあなたの執筆活動はスケールが大きく、価値あるものになっていくだろう。

未来への方向性を指し示せるか

あれこれ調べたあげく、「結局良くわからなかった」となってしまうのもめずらしいことではない。だからといってそれまでの調査がまったく無駄だったということにせず、リカバリーできる必要がある。

すべての事柄について、明確な答えを出す必要はない。答えの出ないときは、未来への方向性、つまりそのテーマが今後どのように社会と関わっていくかとか、どんな変化を辿っていきそうかとか、そのような「仮の見通し」を示すことで、読者も一緒にそのテーマについて考えられるよう道筋をつけることが大切だ。

人間の欲望が色濃く現れているか

人間は合理的な生き物だと考える人は少なくないが、実際には人は論理よりも感情で動く。仮にすべての人間が合理的だとしたら、偏見や差別はなくなり、できごころや法律違反もなくなるだろう。

そして、人を動かしている感情は、その動力源として欲望をもっているというのが著者の考えだ。つまり、文章という形で読者の欲望にコミットし、感情を動かすことで、行動を誘う(記事を読み続けさせる)のだ。

人間の欲望が感じ取れないようなテーマは弱くなりがちだ。逆に、テーマ候補を眺めてそれらの裏側に潜む人間の欲望に目を凝らしてみるのもいいかもしれない。

活字で表現する利点・優位性はあるか

テレビなどの映像メディアのほうが効果的に表現できるテーマを、わざわざ活字で表現する必要はない。

活字は映像ほど感情に訴える力が強くないが、一方で想像力を呼び起こしたり、読む人の考えを深めたりする力をもつ。一度自分に問いかけてみよう。自分の選ぶテーマは、本当に文章で表現するべきか、と。

そのテーマを聞いた第三者が身を乗り出してきたか

面白いと思っていたテーマも、自分ひとりで面白がっているだけかもしれない。これは教養のない人よりも、むしろ教養のある人のほうが陥りやすい問題かもしれない。というのも、知識を豊富にもっている人というのは、知識がない人と同水準にものを考えることが難しいからだ。

テーマの案を複数、誰かに聞かせて反応を見よう。複数の人がそのテーマに興味を示すようなら、面白がっているのはあなただけではないのかもしれない。

まとめ

ライター必読本というのはいくつか挙げられるが、この本はその中でも具体的で、すぐに役立てる情報が多い。この本を読むべき人は、駆け出し~仕事に慣れてきたくらいのライター、個人で活動しているブロガー(それもある程度重い記事を書く人)が適格だ。この本は熟練の先輩が後続のために書いた方法論なので、どんどん摂取すべきだろう。