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これから哲学をしたいという人のためのおすすめ本3冊

「哲学入門」と題された本は、大抵難しい。それは哲学という学問分野のもつ研究対象があまりに広範なため、哲学というものを直接的に説明できず、結局目の前で哲学をしてみせる、という手段に走りがちだからである。哲学というものがなんなのか知りたい人々にとって、実際にやってみせたところでそれに満足するどころか、十分理解することもままならないのである。

確かに、「哲学とは何か」という問いに答えるのはきわめて難しいし、それにはっきり答えられる哲学者がいるのかどうかも怪しいところではある。じゃあ哲学の入門書として何を読めばいいのか、ということだが、私は「哲学における基礎教養/基礎技能」が身につけられる本が適格だろうと思う。

哲学の道に入る前に知っておくべきこと(あるいは身につけておくべきこと)というのはいくらか限られている。具体的には、「疑問をもつこと」「すでにある議論を知ること」「正確に考えること」の3つだろう。

この記事では、そういった哲学の基本について知ることができる本を紹介する。

なぜこの3冊か

今回選んだ本は、もちろん適当に挙げているわけではない。それぞれ「良い」と思ったからこそ紹介している。本のジャンルとしては、「批判的思考」「哲学史」「論理学」から選んだ。この3つはこれから哲学をする上で必ず必要になるだろうと私は考えている。以上の3つのジャンルは、哲学という活動に必須であると同時に、あなたの思考の根底に良い影響を及ぼしてくれるだろうという理由もある。

また、「哲学を紹介する本」ではなく、「"読者が"実際に哲学をする本」であることも今回の選定基準だ。冒頭で述べた「哲学者が哲学をする様子を眺める本」に近いものを感じるが、それとは異なり読者自身がその活動に参加することで、よりその世界に親しみを持てるだろう。

『知的複眼思考法』

「批判的思考」を学ぶための本として、東大教授・苅谷剛彦氏の『知的複眼思考法』を挙げる。「複眼思考」とは氏の造語で、物事を一面からしか捉えられない「単眼思考」の対概念である。要は、物事を多角的に考える力をつけるための本である。

よくあるビジネス書のように、「知的複眼思考法とは何か」とか「それにどんな長所があるか」とかいった内容で紙面を埋めているような本ではない。これは理論と実践の本であり、例文をもとに実際に考えてみる、というタスクも当然課されるので読んでいるうちに疲れてくるだろう。しかし、この本と本気でぶつかりあった人々は、その後自分の思考が様変わりしていることに驚くのである。

この本はいわゆる「哲学っぽい本」ではないため、もっと学術チックな内容を期待する人は後に挙げる2冊を先に読んでみるのがいいかもしれない。

1冊目に挙げておいて申し訳ないが、これはあまり易しい本でもない。しかし、批判の連続である哲学をする上で絶対に役に立つ本だと自信をもっておすすめできるだろう。

『ソフィーの世界』

ごく普通の女の子、14歳のソフィーはある日差出人不明の手紙を受け取る。その手紙は繰り返しソフィーのもとに届くのだが、手紙の内容は「あなたはだれ?」「世界はどこからきた?」といった哲学的問いかけであった。

『ソフィーの世界』は「哲学的気付き」と「哲学史」の本だ。当たり前の日常に対し、その根底を揺るがすような問いかけ。そしてその問いは、何百年、何千年の昔に哲学者たちによって議論されているのである。この本は、歴史上の議論と私たちの日常をうまく近づけてくれる、哲学史のよい入門書だ。

ところで、「あなた」は誰だろうか。わたしは○○だ、と名乗ったところで仕方がない。というのも、あなたが明日、全く違う名前に改名したとして、あなたが全く別の何かになるわけでもないだろうからだ。だが、「あなたがあなたであり、あなたが別の人々とは区切られたものである」という証拠はどこにあるのだろう。見た目が違えば違う人なのか、あるいはそれぞれの歴史が違えば違う人なのか。あなたはなぜ「あなた」であると言えるのだろうか。

扱う問題は簡単に答えの出るようなものではないが、しかし姿の見えないソフィーの先生は、優しい口調でわかりやすく教えてくれる。14歳の少女に向けられる一連の講義は、そのまま大学の教養講義として使えるほどに十分な質と量を持ったものだ。

ノルウェーに生まれた著者は児童・青少年向けの作家であり、元々は高校で哲学と文学を教えていた。そんな彼だからこそ、これほどまでに難しい内容を優しく噛み砕くことができたのだろう。

およそ650ページの分厚い見た目からは想像もつかないほどすいすい読み進めることができる本書は、昔の哲学者たちが考えてきたトピックを知るのにはうってつけだ。一般的な教科書と比べると網羅性では劣るが、勉強し始めたばかりの頃は「よく理解でき・楽しく読める本」のほうが大切だ。

褒めてばかりになってしまったが、哀しいかな、その分厚さに気圧されて読む前に諦めてしまう人も多いだろう。それが唯一の短所であるとも言える。しかし、私としては、見出し一つでも良いので軽い気持ちで読んでみてほしい本である。

『入門!論理学』

「論理学」と聞くと、難解な記号がしかも大量に並んでいるイメージで、毛嫌いしてしまうのも無理はないかもしれない。そうではあるが、論理学的な訓練はその人の思考をクリアで緊密なものにしてくれるし、そのような思考力が哲学には必要である。

本書は「新書版」という縦書きの縛りの中で書かれ、横書きの式はほとんど使われていない。それゆえ式を見せつければ済むことも、しっかり言葉に落とし込んで理解させてくれる。それが様々な論理学の入門書と一線を画す点だろう。

また、本書の中身は教科書のような堅苦しい文体ではない。常に野矢茂樹氏がともにいて、彼の講義を受けているかのように程よく柔らかい言葉遣いで、所々にユーモアが散りばめられている(それが面白いかは別として)。

もちろん本書の内容だけで論理学についての十分な知識が身につくとは言わない。それでも、入門という意味では程よい分量であるだろうし、論理学の根本的なところ、すなわち論理学が扱う対象とか、そもそも「論理」とはなにか、とかいうことについて知ることができる。とりあえず1冊読もう、ということならこの本が良いだろう。

本書を読んで論理学に興味が湧いたなら、『論理学をつくる』や少し古いが『記号論理入門』をおすすめする。『論理学をつくる』は解説と設問の多さゆえにかなりのボリュームになっているが、これ一冊で論理学の基礎的なところは十分に勉強できる。『記号論理入門』はいわゆる教科書だ。古い本ではあるがよくまとまっていて大学で教科書として使われたりもする。

おわりに

哲学、もとい「人文学」(文字による学問)の基礎は本を読むことだ。これはどうしても避けることができない。しかし、知識があればどんどん難しい本も読めるようになっていくので、易しい本で勉強し始めれば何の問題もないのだ。この記事があなたの今後に良い影響をあたえることを切に願っている。

また、これらの本を読む前に、大型書店や古本屋で面白そうな本を探す楽しさに目覚めるのもいいかもしれない。別に買わなくてもいい。「面白そう、読みたい」と思える本に出会うことが第一だ。お金がなければ図書館だってあるのだ。